事業用物件の注意点と原状回復
1 事業用物件の特殊性
事業用物件の賃貸借においては、内装工事を行うことが多いとともに、搬入物もたくさんあります。
オフィスや店舗の場合はパーテーションや机、棚をはじめとした動産類があるでしょうし、飲食店や歯科医院などの場合は配管等の工事まで行っており、貸し渡す前と比べて相当に状態が変わっていると考えられます。
賃貸借契約締結にあたっては、契約終了時にどのようにして返還をするのかという問題(例えばコンクリートむき出しのスケルトン状態にするのか、内装はそのままでよいのか、など)があり、借主(テナント)が行う事業と、その借主(テナント)が出ていった後の建物利用方法の計画によって、様々な事項を検討しておく必要があります。
2 借主(テナント)が倒産している場合
借主(テナント)が賃料を支払わないことが原因で建物明渡を求めざるを得ない場合、多くの場合は借主(テナント)が倒産の状態となっており、事業を行っていた借主自身は賃料や原状回復に必要な費用を支払う能力がないケースが多いです。
そのような場合、結局はその借主自身では原状回復を行うことができません。
それどころか、借主が会社の場合、その代表者(社長)は行方不明であるとともに、従業員もすべて解雇済みであることも少なくなく、借主自身から明渡しを受けることが困難な事例も多いです。
しかし、そのような場合であっても、法律上、勝手に鍵を交換したり建物(部屋)の中にある物を搬出したりすることは、自力救済といって厳に禁じられています。
したがって、借主が自主的に建物(部屋)を明け渡してくれない場合には、訴訟を提起して勝訴判決を取得し、これに基づいて強制執行を行う必要があります。
3 連帯保証人に対する請求の必要性
借主が会社である場合に、その代表者(社長)が連帯保証をしているときは、代表者(社長)に対して未払賃料(家賃)の支払を求めることもできますし、請求をすべきです。
しかし、会社の代表者(社長)は倒産を防ぐために私財を事業につぎ込んでいる場合も多く、結局は支払を受けることができないケースも少なくありません。
そうすると、賃貸借契約締結時に代表者(社長)以外の人物にも連帯保証を求めることを検討する価値があります。
借主は貸主(オーナー)に対しては不誠実であっても、連帯保証人に対しては迷惑をかけることを避けたいという気持ちがあることもあるとともに、連帯保証人に請求をすることで同人から借主への説得を促すこともでき、連帯保証人が早期明渡しの実現に重要な役割を果たすことが考えられるからです。