建物明渡の断行の仮処分をおすすめするケース

1 仮処分のメリット

建物明渡を求める法的手続の原則形態は、訴訟提起をし、勝訴判決を得て、強制執行を行うという流れです。

しかし、勝訴判決を得るまでの間にはどうしても数か月以上の時間を要します。

そうすると、その間に建物を占有している者が別の者に占有を移してしまうことが起こり得ます。

そうなると、所有者(オーナー)は、勝訴判決を得たとしてもその新しい占有者に対しては建物明渡の強制執行をすることができず、新しい占有者に対して改めて訴訟を提起しなければならなくなってしまいます。

そこで考えられる手段が「占有移転禁止の仮処分」を申し立てることです。

この手続は、仮処分の後に占有者が代わった場合でも、前の占有者に対する債務名義(勝訴判決)をもって新しい占有者に対する強制執行を可能にします。

これによって、占有者の交代という執行妨害行為に対処できるメリットがあります。

 

2 占有移転禁止の仮処分の不十分さ

占有移転禁止の仮処分は、上記のような執行妨害への対処としての効果を有するに過ぎないため、勝訴判決を得るまでに数か月以上を要することに変わりはなく、執行完了までには半年以上の時間がかかることを考えておかなければなりません。

所有者(オーナー)としては、一刻も早く退去を完了させて、適切な借主と新たな賃貸借契約を締結したいはずです。

 

3 建物明渡断行の仮処分

そこで検討すべき手段が、「建物明渡断行の仮処分」です。

これは、訴訟で勝訴したのと同様の状態の実現を暫定的に図る手続で、訴訟を経ずに建物(部屋)の明渡しを仮に受けることができます。

入居者が、契約時に定めた利用目的に反して、暴力団事務所や性的サービスを提供する風俗店として利用しているなど、悪質性が高い場合には、建物明渡断行の仮処分を利用することで、直ちに明渡しをさせることができる可能性があります。

一般的に建物明渡断行の仮処分が認められ得る例としては、

①債務者(占有者)の行為が執行妨害的と評価される場合
②債権者(オーナー)の占有を債務者(占有者)が暴力的に侵奪した場合
③債務者(占有者)の目的物使用の必要性が著しく小さい場合
④債権者(オーナー)の受ける損害が著しく大きい場合
⑤債務者(占有者)の行為が重大な公益侵害となる場合

が挙げられます、建物明渡断行の仮処分は、暫定的ながらも訴訟を経ずに明渡しを完了させられるため、迅速に解決を図ることができるというメリットがあります。

また、占有移転禁止の仮処分と異なり、債務者(占有者)が立ち会う審尋の手続を経る必要があります。

そうすると、仮処分決定に先立って裁判所から占有者に呼出状が届くため、裁判官を間に挟んで早期に話合いの機会を持つことができるというメリットもあります。

 

4 建物明渡断行の仮処分はぜひ弁護士にご依頼を!

建物明渡断行の仮処分が認められるための要件は厳しいとともに、手続も極めて専門的であり、オーナーご本人が行うのは大変に難しいです。

また、占有移転禁止の仮処分や建物明渡断行の仮処分はいずれも民事保全手続と呼ばれるもので、認められるにはオーナー側が担保金を積む必要があります。

しかも、建物明渡断行の仮処分は特に高額の担保金を求められることが多いです。

したがって、建物明渡断行の仮処分を申し立てるか否かという検討段階から、ぜひ弁護士に相談していただきたいと思います。

 

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